年齢を重ねると、少しずつ増えてくる白髪。
「白髪って、そもそもなぜ白くなるの?」と考えたことはありませんか?
実は、白髪には「髪の毛を黒くする細胞」が深く関係しています。
そして2023年、この白髪の仕組みについての研究が、世界的に有名な科学雑誌「Nature(ネイチャー)」に掲載されました。
髪の毛が黒いのは、髪の中にメラニン色素が含まれているためです。
このメラニン色素を作っているのが、メラノサイトという細胞です。
そして、このメラノサイトを生み出す「もと」となる細胞が、メラノサイト幹細胞です。
メラノサイト幹細胞
↓
メラノサイト
↓
メラニン色素を作る
↓
髪の毛に色がつく
つまり、簡単にいうと、メラノサイト幹細胞が髪の色を作る仕組みを支えているわけです。
ここで登場するのが、2023年にNatureに掲載された研究です。
研究チームは、毛包の中にあるメラノサイト幹細胞を詳しく調べました。
すると、メラノサイト幹細胞は、ずっと同じ場所にとどまっているわけではなく、髪の毛が成長する過程で毛包の中を移動しながら、状態を変化させていることが分かりました。
必要なときにはメラノサイトへと変化し、また幹細胞の状態に戻るという、非常に柔軟な動きをしていたのです。
ところが、研究では年齢を重ねたマウスでは、メラノサイト幹細胞の一部が毛包内の特定の場所に「取り残された」ような状態になることが確認されました。
この状態になると、メラノサイト幹細胞が正常に働けなくなり、新しいメラノサイトを作ることができなくなります。
その結果、髪の毛に十分なメラニン色素が供給されなくなり、白髪につながる可能性が示されたのです。
若いとき
メラノサイト幹細胞
↓ ↑
状態を変えながら正常に働く
↓
メラノサイトが作られる
↓
メラニンが作られる → 黒い髪
年齢を重ねると
メラノサイト幹細胞の一部が取り残される
↓
正常に働けなくなる
↓
メラニンが十分に作られなくなる
↓
白髪
この研究は、2023年4月19日にNatureに掲載されました。
論文のタイトルは、
Dedifferentiation maintains melanocyte stem cells in a dynamic niche
です。
研究では、マウスの毛包にあるメラノサイト幹細胞を追跡し、その動きを詳しく調べました。
その結果、メラノサイト幹細胞は、単純に「幹細胞のまま待機している」のではなく、毛包内を移動しながら状態を変化させていることが分かりました。
さらに、加齢すると一部の細胞が適切に移動できなくなり、メラニンを作る細胞を生み出せなくなることが示されました。
つまり、この研究は「白髪になるとき、メラニンを作る細胞そのものだけでなく、そのもととなる幹細胞の働きや移動が重要なのではないか」という新しい見方を示した研究なのです。
ここは少し注意が必要です。
実は、白髪とメラノサイト幹細胞の関係については、2023年より前から研究されていました。
そのため、「2023年まで白髪の原因はまったく分かっていなかった」というわけではありません。
2023年のNature論文で注目されたのは、メラノサイト幹細胞が毛包内を移動しながら状態を変化させること、そして加齢によってその仕組みがうまく働かなくなる可能性が示されたことです。
また、この研究の中心となった実験はマウスを使った研究です。
したがって、「この仕組みが人間の白髪の原因として完全に証明された」とまで言うことはできません。
今回の研究から分かるのは、白髪という身近な現象にも、実は「幹細胞」という細胞の仕組みが関係しているということです。
私たちの身体では、さまざまな組織で幹細胞が働いています。
普段はあまり意識することがありませんが、身体の組織を維持するためには、こうした細胞の働きが重要です。
鏡を見るたびに気になる白髪も、実は「細胞がどのように生まれ、働き、そして加齢によってどう変化するのか」という、生命科学の大きなテーマにつながっているのです。
白髪を見つけたら……
「また1本増えた……」
だけではなく、
「この1本にも、幹細胞の壮大な物語がある!」
と考えると、少し見方が変わるかもしれません。
参考文献:Sun Q, et al. Dedifferentiation maintains melanocyte stem cells in a dynamic niche. Nature. 2023;616:774-782. DOI:10.1038/s41586-023-05960-6